春のめざめ@日芸所沢校舎ブラックボックス(舞台総合実習ⅡA)

日本大学芸術学部演劇学科
平成23年度 舞台総合実習ⅡA(演劇2年)
『春のめざめ』
原作:フランク・ヴェデキント
演出:桐山知也

原作を読んだことがなかったので事前知識ゼロで見に行ったのですが、楽しめました。


タイトルもむちゃくちゃ露骨なタイトルなんだということに開始数分で気づくぐらいしょっぱなから露骨で、タブーを剥き出しにするお芝居でした。「性」「同性愛」「少女の妊娠」「堕胎」「死」
大人が子どもになんとなく伏せる部分。少女漫画ではないことにされる部分。
そういう部分を否が応にも無理矢理刮目させられます。
堕胎に触れる部分ではちょっとかなり「うっ…」となったくらいです。

だけど見終わってから不思議と不快感はなかったです。
それがすごく不思議で、「なんでだろう?」と考えました。
タブーに触れる物語はたくさんありますが、そういうものに出会った時よく
「別にみんな知ってることなんだからあえて今さら言わなくていいだろ!」
「タブーをどや顔で人前に晒したいお前の自己満足になんで私が付き合わなきゃいけないんだよ!」
「いたずらに人の心をかき乱して何が楽しいんだよ!」
と憤りや怒りを感じることが多いのですが、春のめざめはこんなに露骨だったり、部分的には不快になる部分(私の場合は堕胎の表現)もあったりしたのに、観終わってから嫌な感じはしなかった。
どうしてか考えました。


理由は色々あると思いますが、でも大きく二つの理由が浮かびました。
一つ目はそのタブーに触れなくてはいけない理由が明確に提示されていること。というか、描かれているタブーが現実(当時もだし、現代日本でも)に置いても触れる必要のあるタブーだから。と言った方が近いかもしれません。

劇中では、ヴェントラに性の知識があれば妊娠が防げたかもしれない、もしくは妊娠のショックが緩和されたかもしれない、という理由で、ヴェントラは性についてもっと知っているべきだった。


現代でも、性についてタブー視するあまり、問題を引き起こしてる現状があります。
障害者の性の問題について一般社会で全然認識されていないこと。予期せぬ妊娠。性知識のなさから来るエイズ、性病等々。

それから性に対するタブー視を進めるという意味合いでは東京都青少年健全育成条例改正問題など。

だから劇中でそのタブーに触れなければいけない必然性を感じることができたからこそ、現代日本で春のめざめを上演する意味を感じられたからこそ、そういう憤りや怒りは感じなかったのではないかと思います。


二つ目は、作者がタブーを伏せたいと思う大人と、タブーを知りたいと思う子どもの立場を両方理解した上でそれでもなおかつ子どもの目線から
「タブーと向き合うべきだ」と主張していること。
つまり、作者自身がすでに「そのタブーについて触れるべきかどうか」の葛藤を越えているから、素直に彼の描いた話を受け入れることができたのではないかと思います。

大人達が白塗りで、子ども達が素顔なのは、作者が子どもの立場に立ってるからというのもあるのかなあと思いました。

作者がタブーを伏せたい大人側の気持ちも吟味していたのだな、と感じたのは、白塗りの大人達の台詞にあった
「深く人の羞恥心に根ざした事柄をなぜ伏せてはいけないのか」
「あまりに早くそういうことを知りすぎると心に歪みができてしまう」
台詞は曖昧ですが、大体こんな感じのことを言っていてそれもまたある一面においては真理だと思うのですよね。


あと、白塗りの大人達って確か役の性別と演者の性別がみんな逆転していたと思うんですけど、それもなんだろう、性の役割についての疑問やジェンダーの問題を彷彿しました。
もちろん演出や各人の演技力の高さによるところもあると思うのですが、白塗りにすると異性を演じてもなんか逆に妙にリアルに感じるというか、変にカマっぽく・おなべっぽくならないのは不思議だなーと思いました。


印象に残ったシーンは、メルヒオールがモーリッツに渡した、性に関して書かれた文書を学校の先生たちに見つかり糾弾されたときに先生達に対峙したメルヒオールが
「先生達も皆知っていることなのにそれのどこが公序良俗に反するのか教えてください!」
と言うシーン。
負けるとわかっていても戦うべき権力者と戦うこと、決して懐柔されずに自分にとっての真実を貫こうとする姿が心に残りました。

それはまた、19世紀後半のドイツでこの作品を発表した作者と社会の関係性にそのまま重なりました。
春のめざめは、初演後社会問題になって結構長い間上演禁止になっていたそうなんです。
そういう時代の中でこういう作品を発表したという意味。


舞台装置も良いなーと思いました。やっぱなんかお金かけられてて、きちんと造られてる舞台装置って好きです。わくわくする。
特にお墓の造形が好きでした。

暗転が多い分、照明と音響と演技がちゃんときっかけで噛みあってる!っていうのがたくさん見れて、結構それ見るの好きなのでそこも楽しめました。


小道具や衣装もちゃんと凝ってて19世紀ヨーロッパのイメージしっかり出てて素敵でした。紙とかも古びてる感じ出てたし、母親役達が着てるドレスとかも形良いなあ体型ほんとに女性的に綺麗に見えるなーって思ったし、小道具では特にほんとに火を入れるランプが好きでした。
あと洋式便器をあのたったワンシーンのためだけにわざわざ借りて来たのかと思うとそれも面白かったです。


メルヒオール役の笹野は紙屋悦子の時もなんてぴったりなんだろうと思ったのだけれども、今作もぴったりでした。
和洋どっちの古風なお芝居もいけるんだー、と。
堅い言葉が全然浮かないのはすごいなあと思いました。

ヴェントラ役の美仁音ちゃんが可愛かった。なんだろう20歳にもなってうぶな役やると妙に浮いちゃったり、変に白々しくなりがちだと思うのだけれども、全然そんなことがなかった。ほんとに幼く見えた。


ヘンスヒェン役の曽我くんとエルンスト役の小黒くんのキスシーンが綺麗で驚きました。しかもそのキスシーンの前からそういう空気を醸し出してたからそれがすごいなーと思って。
ある意味同性とキスすることより、同性とそういう空気を醸し出すことの方が難しい気がするので余計に。

白塗りの異性役を演じてる人たちは、みんなほんとにそれっぽく見えました。
男性は女性に、女性は男性に。
特にベルクマン夫人役の成田くんが面白かったです。 素直に笑いました。

用務員パクリ役の山口さんは声がすごい可愛くて不覚にもきゅんきゅんしてしまいました…。

外部公演だったり前期の総実だったり、複数回演技してるとこを見たことがある人がほとんどだったから、なんか段々どういう感じの演技をする人なのかが見えてきて、それも面白かった。


ほんとに面白かったです。
原作も今度読んでみたいと思います。「春のめざめ」

ちなみに舞台総合実習は外部のひとも演劇学科のHPから予約できます。
http://theatre.art.nihon-u.ac.jp/bk/index.html


今度の洋舞のは見に行けないので、私は今年ラストの総実だったのですが、来年の総実も楽しみです。