ある女の子の話。

バイト先に、アジア系の外国人の女の子がいる。
その子は私よりひとつかふたつ上で、いつも明るくて可愛くて、上手だけど少したどたどしい日本語を操っているとこもまたキュートだった。
暗い所なんて一度も見たことない。くるくる変わる表情や笑顔がとても魅力的だった。


ある時バックルームで、彼女と雑談しながら食休を取っていた。
ふとしたことからこれまでのバイトの話になった。彼女は日本に来てから色んなアルバイトをしてきたらしい。
それから、「バイト先でセクハラに遭ったのが原因でバイトを辞めたことがある。訴えてやろうかと思うほどひどかった。」
と、彼女は言った。
あるコンビニで働いてる時に、店長が突然、「リンさん(仮名)○○って言葉知ってる?○○っていうのは仕事が出来る立派な人って意味なんだよ。リンさんは○○な人?」
と聞いて来たそうだ。
その時リンさんは、自分は仕事ができないと思っているから
「違います」
と答えたそう。
でも、帰りの電車でふとその言葉の意味を思い出したらしい。
「えっ、違うよなーって思って。○○ってほんとは日本語ですごく低俗で卑猥な意味の言葉でしょ?」と。
(その時、彼女は私に「えっ、○○の言葉の意味言った方がいい?えーとね…」と笑いながらも少しためらいがちに言い始めたので「いいよ別に無理に言わなくて」と断ったら、その後も○○は○○として話し続けた。)
その後も時々その質問を店長からされ、そのたびにその言葉を否定し続けていたら、
「他の中国人や韓国人の女の子は、『うんそうだよ〜』って答えるよ。」
と言われ、その言葉にもっと幻滅したそうだ。それ以降、店長がそういう質問をしてきたら無視するようになったと。
我慢したものの、でもやっぱり怒りは頂点に達して、数か月後バイトへ行った時に
「もう辞めるから!」
と敢えてタメ口で店長に宣言して帰ってきたそうだ。


でも、彼女は「日本人てひどいね。」とは言わなかった。(私が日本人だからかもしれないけど。)
「どこの国にもひどい人は居るね。」と言った。
すごく大人だなと思った。
もし彼女がこの国で女の子じゃなかったら、外国人じゃなかったら、と思うと、なんだかやるせない気持ちで一杯だった。
自分のちょっとした享楽のためになんて卑怯で下劣なことが平気でできるんだろう。
怒りはでもぶつけどころがなかった。


どうしたらいいんだろう。
いつも明るくて、泣きごとひとつ言わない彼女が、こんな話をやっぱり明るく私に話してくれたけど、でも店長からそんなことを言われたその時、言葉の意味に気付いたその時、一体どんな気持ちがしたんだろう、悲しかったり悔しかったりしたんだろうなと思うのに、それは絶対に分かるのに、どうしてわたしには何も出来ないんだろう。
どうして何か出来るのは、そんな卑怯で下劣な人間こそなんだろう。

ああでも、だけど、言い続けよう。言い続けるしかない。諦めたら、黙ったら負けだ。