素敵な瞬間。そうでない瞬間。

男の子が、眼の前で眼をつむり震える息で深呼吸をしている女の子をとても優しく愛しげに見守っている様を偶然見つけてしまったことがあった。
それは父親のような兄のような恋人のような。一点の曇りのない真っ直ぐで暖かなものがきっとそこにはあった。
それはあまりに素敵な瞬間で、壊してしまわないように息をひそめてそっと見ていた。
女の子は、その時の彼の表情を知らない。男の子はその時自分がどんなに素敵だったか知らないだろう。
赤の他人の私だけが、その瞬間を知っていた。


二人の関係はその時知らなかった。

しばらく経ってから、私が居あわせたその時の直後に二人が付き合い始めたということを聞いた。


さらにそれからずいぶん時間が経った。
その男の子が飲み会で話していたという、彼女が絶対に人前で話されたくないような話を人づてに聞かされた。


知りたくなかったなあ、というのが率直な感想だったし、きっと彼に悪気はないんだと思うけど、でも、だけど、その無神経さに悲しくなってしまった。


どっちかじゃなくて、そのどっちも、なのが人間なんだろうなというのは頭では理解できるんだけど。
でもまだなんだか上手く飲み込めない。
ピーターパン症候群を気取りたくはないのに、でも怖くなる瞬間がある。


飲み込めないまま、「お嬢ちゃん」は「お姉さん」に「おばさん」に「おばあさん」になり、死んで行く。