大森靖子さんと私。「PINK」を好きになるまでの3年半

私が大森靖子さんを初めて見たのは、2011年の12月のことだった。この年の学祭で太平洋不知火楽団を知って好きになった私が、じゃあ次は笹口さんのソロを見に行こうと思って行った弾き語りのイベントで共演していたのが大森さんだった。

なんか、曲の女性的な生々しさとか、MCのあの実体のないことについて喋る感じとかああめちゃくちゃ苦手だなって思った。
だけどそんな私の好き嫌いなんかまるで些末なことのように中盤ものすごく暴力的なぐらいに引き込まれた。
時々そういう瞬間が演劇でも小説でも音楽でもあるけど、あれは一体なんなんでしょう。自分の好みとか、趣味とかまるでおかまいなしにその中に引きずり込まれるそういう瞬間。
今日の出演者の中で一番苦手だと思ったのに、今日一番引き込まれました。
客の趣味価値観好み性格を凌駕するパフォーマンスでした。
http://arikana.hatenablog.com/entry/20111207/1323276316

その生々しさとか、心をかきむしられるような声とか、全てをここにぶちまけている感じとか、瞬間生理的に嫌だと感じて目も耳も塞ぎたかった。
この時の大森さんのことは、表情よりも、お客さんに背を向けて歌う姿とか、ふりみだされた髪のことばかり覚えている。PINKが歌われた時に無理だ好きになれないと決定的に感じたことも。
でも普段色んなイベントに行っていて、お目当て以外はその日のうちに名前はおろかその音楽も存在も忘れてしまう対バン相手がほとんどの中、「大森靖子」という名前、存在は強烈に私の中に残された。
うみのてのギター、高野さん、そして後にうみのてのメンバーになる鈴子さん(当時はnekiさん)の弾き語りを初めて見たのもこの日だった。
この時からかいつ頃からだったか、大森さんのツイッターやブログを時折覗き見るようになった。

 

次にステージに立つ大森さんを見たのは、うみのてとBiSが出演するということで見に行った、MOOSIC LABのイベントで。

12月に初めて聴いた時は、歌いだし3秒で、ああダメだ、どうしても苦手だ、と体中が拒絶反応を示したのだけれど、今日は素直に歌や音が入って来た。彼女が変わったのか私が変わったのかわからないけど。両方かもしれない。
土足で入って来ないで欲しい、生々しい物を見たくない、とは感じなかった。その生々しさやある種汚いものでさえ美しいなと思った。
彼女は女性であることを全て引き受けて戦っているように見えた。
歌っている時は、髪を振り乱して怒りや憎しみさえ感じる時があるのに、曲が終わると「ありがとう」と幼く無垢に笑う表情が心に残った。
ただ、後半の音楽とは少し離れた、語り的な部分はやはりどうも私には相容れられなくて、全く心動かされなかった。
真剣さや切実さだけでは全ての人間の心は動かせないのだという事実を、観客としての自分の身体を通して理解してしまったことにショックだった。

YouTube見てわかった気にならないで」という歌詞が響いた。
鮮烈にライブハウスを切り裂いた。


曲の途中で、女の人が一番前に来て大森さんの歌を聴こうとした。彼女はその様子を見て優しく微笑んだ。
最後の方、誰かが後ろの方で喋っている声が聞こえた。彼女は一瞬殺意すら感じる眼でそちらを睨みつけ「分からないなら死ねば良い!」と強く歌った。


たぶん、もしかしたらもうほとんど私は彼女のことが好きなのかもしれない。あるいは嫌いなのかもしれない。じゃなきゃ12月初頭に初めて彼女を見た時から今までずっと彼女が気になっている説明がつかないからだ。自分でもよくわからない。
ただもう少し、彼女の曲を聴いてみたい。

http://arikana.hatenablog.com/entry/20120501/1335840365


ここから私の大森さんへの第一印象がちょっとずつひっくり返されていく。でもPINKがどうしても苦手なのが変わらなかった。

 


3回目は、新宿タワレコ。TempleBookと笹口さんとの合同リリイベだった。

開始時間から少し遅れて、エレベーターで7階の新宿タワーレコードへ上る。エレベーターのドアが開くと、眼の前には視聴したりCDを購入したりしている人達の織りなすCDショップの日常があるのに、それに似つかわしくない歌声が店内に響き渡っていた。人だかりの奥を見ると、淡いピンク色のワンピースを着てイベントスペースで歌う大森さんの姿があった。
後ろの、立ち止まっていないお客さんにも届くようにと視線を遠くにも向けながら歌っていた。
いつだって剥き出しの人。どうしてそんなに剥き出しなの?と思うぐらい。もっとひた隠しにすればきっと傷つかないはずなのに。
それを観客としての私が良としているのかどうかがまだわからない。ただでもそれはとてもすごいことだと思う。ある程度の歳を重ねた人間が誰にでも出来ることじゃないもの。
だって傷つけようとしてくる人達から逃れる術がない。馬鹿にされたらその言葉がそのまま胸に突き刺さってしまいそうで。
女性であることを剥き出しにして戦う彼女に男の人は誰も勝てない気がした。だから彼女は男性に人気があるのかなあと思った。特典のために列をなす人のほとんどが男性だったから。

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このインストア以降、2013年、2014年は大森さんのライブを一度も見ていない。でも相変わらずブログは読んでいたし、新曲のMVがYouTubeに上がると見ていた。

そして何より、私の興味を持つ場所でたびたび大森さんの名前を聞いた。研究員の車に同乗して向かったという夏の魔物、TIF、縷縷夢兎の衣装提供、もふくちゃんが審査委員を務めるミスiD、私のタイムラインを占拠する女の子達の方々から大森さんの名前が上がるのを見出したのもこの頃だった。
一方私はそんな中、絶対彼女で心に引っかかって、ミッドナイト清純異性交遊を見た時にはもうほとんど好きになりかけていた。
でも好きだと言えなかったのは、ブログやフライデーで時々書かれる、実名の明かされない誰かを刺す言葉や、「わからないなら死ねばいい」という歌詞は、わかることができなかった私にも向けられているような気がしていたからだった。
それに最初にあれだけ「わからない」と表明したのに、人気が出て今さら好きですなんて許されない気がした。大森さんにも知らない誰かにも。でも一番は自分がそれを許せなかったからだ。
今さら好きになる資格がないならせめて見ていないことにしよう、見ないようにしよう。
黙殺を決め込んだ私は、動画を見てもブログを読んでも曲を聴いてもそれをどう思っても、大森さんの名前を誰に対してもどこででも一切発さなかった。

 

だけど、きゅるきゅるのMVを見た時

www.youtube.com


それから、さゆとの共演を果たしたMJの大森さんを見た時。
もう大森さんや大森さんの音楽を黙殺することは出来ないと思った。あまりにも圧倒的だったからだ。


好きだけど、でも好きになることを許されていないとおもっている、という矛盾をどうすればいいのかわからないまましばらく時間が過ぎた。
それが決定的に変わることになるのは、きゅるきゅるのリリースイベントがあった日。
水野しずさんの働くシャドウで、おもむろにピントカライブDVD鑑賞会が始まったのだった。
大森さんを知らない、見てない、聴いていないことにしていた私は人前でそれを見てどんな顔をすればいいのかわからないと思って混乱した。見たくなかった。だけど帰るとは言い出せず、やめてくださいと言えるわけもなく、私は黙って映像が始まるのを見ていた。
始まってすぐに好きだった。こんなのダメだよ、好きになっちゃうよ。と思いながら目が逸らせなかった。
終わって、お会計をする時しずさんが「ごめんね、突然鑑賞会はじまって」と言った。ごめんねは、もし私が大森さんを知らなかったら、興味がなかったら突然鑑賞会をはじめてしまってごめんねって意味なんだろうなとおもって
「いえ、大森さん、知ってて。高野さんと大内さんも。」と答えた。
知らないとはもう言えなかった。

 

ビレバン宇田川で、何ループもきゅるきゅる特典のリキッドワンマンの映像を見聞きした。大森さんの載っている音楽誌を読んだ。
買いかねて帰った数日後、しずさんのイベントのチケットを発券するために、渋谷のコンビニに来た。発券して外に出ると、外の大型ビジョンできゅるきゅるが流れていた。もう逃げられない。私は見られている、と感じた。その足で私はビレバン宇田川できゅるきゅるを購入して帰った。
その日の気持ちが綴られている日記。
http://arikana.hatenablog.com/entry/20140926/1411743179

その日を境に私は毎日繰り返し繰り返し執拗に大森さんの映像や曲を観たり聴いたりするようになった。
ただ、他の曲は全部すきだったけれど、PINKだけは相変わらずどうしてもダメだった。


そのうちに、大森さんのツアーが決まり、告知ページを見ると、大森さんのコメントに

どんな形で大森靖子を知った人にも、わざわざ会いにきてくれる運命に感謝しています

http://oomoriseiko.info/live/tour.php?id=1000272

という一文があった。
気にしていたのは私だけで、本当はもうとっくの昔に許されていたのかな、と思ってしまった。

だけどあんまりお財布に余裕がなくて現場に行くには至らなかった中、大森さんの鹿児島公演に行こうと思い立ったのは、ある日ディアステで近くに座ってたお客さんがたまたま鹿児島在住だと知り、その人をフォローしたことによって大森さんの鹿児島公演の現地運営のアカウントがおすすめに上がってきたからだった。
それを見てすぐフォローして、その瞬間、鹿児島へ大森さんのライブを見に行こう、と即座に決めた。鹿児島は、私が中学から高校時代までを過ごした場所だ。
その時の詳しい事の顛末はここにあります。
http://arikana.hatenablog.com/entry/2015/03/04/000531


そして先週、大森さんのライブへ行くため、飛行機に乗って鹿児島へ向かった。
http://arikana.hatenablog.com/entry/2015/04/12/230721
三鷹の小さなライブハウスで初めて大森さんを見た時のことが重なって見えて、でも2年ぶりに生身で触れる大森さんの世界はより強く美しくなっていて圧倒的だった。ライブでやった曲は新しいものから昔のものまで大体全部知っていて、そらで歌詞をなぞれるぐらいだった。
本当にずっと楽しくて、座っているのがもどかしかった。

「お母さんが新しい車を買ったとき、愛媛からフェリーに乗って大分まで行って、そこから鹿児島へ南下する時の車内でお母さんと中島みゆきとかを歌ったりしたのが、修学旅行より楽しかった。」

ってMCが心に残っている。


アンコール最後の曲はPINKだった。目をそらしたいとも耳を塞ぎたいとももう思わなかった。
PINKの美しさと優しさに、私はその時初めて、ようやく触れることができた。