沼へようこそ

10年ぐらい時間が巻き戻ったような、レトロな店内。

に似つかわしくなく、声を張ってアイドルの話をしている男女。

まるで

自分はここにいるよ

と、主張しなければ、世界の誰をも自分がここにいることを忘れてしまうだろうから

そんな焦燥感や怯えを明るく振る舞う態度の影に感じて、聞いてる方まで落ち着かない気持ちになる。

 

遠くの席で、早口であきらかに「普通の」コミュニケーションのトーンじゃない声色で、大きな声で自分の話を店員にまくしたてる男がいた。

 

隣の席の男は、スマホを見ながら時折独り言を喋る

「あとでゆっくり話そうね」

と話しかけられて、まんざらでもなさそう

 

今、扉を開けて入ってきた男は、心の声を全部発声している

 

ここにいる私は、一人、無言で、黙々とケーキを食べる。いないことにされることに、慣れ切ってしまっている

 

だけど、心の中でどう思っていたとして、誰も互いを表立って馬鹿にしない

「一歩間違えば僕も俺も私も、ああなってしまっていたね。」

互いが互いに対して思っている。

 

「チェキというものを初めて頼みます」

向かいの席の男が恥じらいながら店員にそう言った。

 

沼へようこそ。

ここは、そういう店です。