日常と非日常の境界線。何百回も眺めていた場所に初めて踏み入る瞬間。

職場の最寄り駅から職場へ向かう道の途中には、小さなヴィンテージのお洋服屋さんがある。

最初は全く意識にも上らなかったそのお店が、何百回もそこを通っているうちにだんだん気になるようになってきた。

時々入れ替えられる、窓辺に飾られたお洋服が可愛い。

朝出社する時の鬱屈とした気分の中で、気付けばそのお店の窓辺を見ることが毎朝の小さな清涼剤になっていた。

 

意識に上るようになってから二年ぐらい毎日通りしなにその窓辺を眺めるようになってついにそのお店に足を踏み入れた、金曜日の仕事終わりの夕暮れ。

それまで外観だけ知っていた場所に初めて足を踏み入れる瞬間は、いつもどきどきする。

ずっと知っていたはずの場所に対して「初めて知る」と感じる。その場所との関係が結ばれる瞬間。

小さくてシンプルな内装の店内に、選び抜かれたかんじのヴィンテージのお洋服やアクセサリーが展示してあって、感じのいい店員さんが働いていた。

 

このお店に来るのは初めてですか?と店員さんに聞かれて

「はい。」と答えた後、窓辺から見える外を見ながら

「毎日そこを通っていて、飾らているお洋服が可愛いな…って。」

と付け加えた。数年越しにお店のひとに初めてそう告げるのがとても不思議な気持ちだった。

 

出ていきしなに挨拶した「また来ます。」

いつもの通勤路に戻り、駅に向かいながら、

本当にまた行くだろうな

と思った。