フットマンとしての誠実さとは。(3月前半ご帰宅記)

半年以上前のこと、微妙に体調が優れなくて、二回もベルを鳴らしたのに誰も気づいてくれなくて、でも気づいて最終的にお化粧室に連れてってくれたのが黒崎さん。担当じゃなくてもお迎えやお見送りで感じよくご挨拶してくれるのが、黒崎さん。お水注いでは(謎の)一言を残していくのが黒崎さん…。
私にとっての黒崎さんというとそんなかんじでしたが、初めて担当してもらったのがついにこの日でした。

 

絶対面白い方ですよねと思いつつ、それなりに定型通りの綺麗なお給仕が進みオーダーまでが終了。
初めましてだし今日はこの感じで最後まで終わるのかなと思っていると紅茶が到着。
ロイヤルアルバートのリージェンシーブルーが置かれる。
「姫様のイメージカップです。」
この日の私の服の色味の雰囲気に近いし、花柄でで春らしさもあり、センスあるチョイスですねと思い、
「素敵なカップですね。」
と言うと、黒崎さんが満を辞して
「ですがこのカップよりも一層素敵なのが…」

といわれてリップサービスに身構えていると、黒崎さんの言葉が途切れ若干視線も泳いだ後、言葉が継がれた。

「…姫様です。」

「名前忘れたでしょ!」

「ありま姫様。」

「おっ。」

「ムード!です!」

と言い残して去っていった。
名前をど忘れして思い出そうとしている間ではなくて、話の雰囲気的に「ありま姫様」と呼ぶより「姫様」と呼んだ方がいいのではないか悩んだ一瞬の間ですよと言いたかったのか??いずれにしても可愛いね…。

 

あとはずっと面白かった記憶しかないけど、黒崎さんの名誉のために良かったなと思った話を書いておくと、

 

「歩き方が綺麗ですけど、何か気を付けていることありますか?」

と聞くと

「ありま様に見られていることを意識することです。」

リップサービスで返されてしまったーと思い、

「わー、ありがとうございますー」

と笑いながらたぶんわかりやすく棒読みに答えると

「いや違うんです!ほんとに!ほら、ありま様に見られていると思って緊張で不自然な動きになりそうなところをこらえてですね、(以下略)」

そこまで熱弁しなくても…、と思ったところで、あ、と気づいた。

「確かに、人に見られている意識を持つのは大切なことですね。」

普通に「お嬢様方の視線を意識すること」と答えても色気がないから、「ありま様に見られていることを意識する」と言い換えることがきっと黒崎さんなりのサービス精神で、でも単なるリップサービスじゃなくて私の質問に対する誠実な回答でもあるから、私が単なるリップサービスだと思って流そうとするのは嫌だったということなのかな。

人に見られている意識が、黒崎さんの所作を美しくするっていうのはすごく黒崎さんらしい気がしたし、黒崎さんのスワロウテイルのフットマンとしてのプロ意識も垣間見えていい答えをもらえたと思った。

実際空いた席の下げものも、お嬢様方のお水を注ぐのも、お嬢様のベルに反応するのも黒崎さんは率先して動いていて、きっとその答えは言葉だけじゃない本当に本当のことなんだろうと思った。

誠実さが前面にわかりやすく出てくるタイプではないけれど、根底にいつもフットマンとしての誠実さと思いやりのある人という印象だった。

お皿の取り替え、席からお化粧室までの案内、お化粧室から席までの案内、紅茶の継ぎ足し、お水の継ぎ足し、出発まで、この日私は黒崎さん以外のフットマンと一度も関わることがなかったけれど、何ひとつ不便なく快適に過ごせた。

 

出発まであと5分という時に黒崎さんがやってきた。

「今日はいかがでしたか。」

「面白かったです。」

と黒崎さんを示すと黒崎さんは笑った。

「私は添え物のような存在でして、お食事などが主役ですから!」

「大変おいしゅうございました!」

少しの間の後、黒崎さんは穏やかに

「また担当させてくださいね。」

と言い、私は

「こちらこそ。」

と答えた。

 

 

 

 

◎食事:アンナマリア

◎紅茶:フェイラン

◎カップ:ロイヤルアルバート/リージェンシーブルー

◎ワイン:ウィスパリング・エンジェル 2015/シャトー・デスクラン/フランス・プロヴァンス地方

ロゼは割と辛口で、スコーンやキッシュに合う感じだった。

この回は黒崎さんのインパクトが強すぎて料理や飲み物の記憶が薄いけど、総じておいしかったです。冬ごもり風キッシュとか。デザートも前回と同じの(苺のショートケーキなどが乗ったお皿)食べたけどやっぱりおいしい…。夕方ってサンドイッチ品切れてること多いのね。