散歩。

疲れ果てるまで歩きたい時がある。
そんな時は旅に出るでも電車に乗るでもなく、ご近所を歩く。
縛りは、一本でも知らない道をたくさん歩くこと。
あとは、地図は持ちたくないから、知ってる道を基軸にどんどん範囲を広げて行くこと。

午後三時。猛烈に外に出たくなって、部屋着からジーパン、パーカーに着替えてカーディガンを羽織りコートを着込むと、ポッケに財布と携帯だけ突っ込んで外へ出た。
外はまだ肌寒いけど、春の匂いがする。東京にも季節の匂いはちゃんとあるみたい。
心浮き立つような、わくわくするような、でもどこか淋しさをはらんでいるそんな匂い。
自宅を拠点に歩きだす。
ぐるぐると歩く。区画整理されていないから入り組んでいる住宅街。ぐるぐるぐるぐる歩いていると、どの道を通ってどの道を通っていないのか混乱してくる。
空は少し曇っていたけど、でも雲の向こうの空は薄く明るい水色で、確かに春の空だった。
住宅街は家が密集していて空が狭い。一軒家でも似たような造りの家が立ち並んでいる。街に出ればあれだけ人に溢れているんだから、その住処が所狭しと並んでいるのも不思議はない。でも街に居る人々よりも、その住処はひっそりとしている。
小学生が駐車場のブロック塀を相手にキャッチボールをしていた。通りがかると気まずそうにどこかへ駆けて行った。
家の前に座り込んだ女の子が弟を呼ぶ声。
手を繋いで歩く若い男女。
ダックスフントと散歩している中年男性。
電話線工事で交通整理をしているおじさんに会釈をされた。
野良猫が数匹。一匹がびっくりするほど綺麗な顔立ちをしていた。


通りがかったコンビニで少年マガジンを立ち読み。あひるの空とAKB49は欠かせない。表紙はSKEだった。
ついでにライブのチケットを発券したらいまいちいいのか良くないのかわからない席だった。


細く狭い道を歩くのに飽きて大通りに出る。直線。通ったことのない道。広い歩道。真っ直ぐ行った先に何があるのかまったく見えない。
道が広いから空がとてもよく見えた。車の走る音が絶えない。
同じような道が続くから、同じようにずっと歩いた。
いくつものバス停を通り過ぎる。
信号待ちで、後ろに居る自転車に乗った男の子がやたら自転車のベルを鳴らしてうるさかった。
その斜め前には金属バットをリュックに差して急いでどこかへ向かう小学生の姿。

さすがに疲れたと思った矢先に、遠くで電車が横切るのが見えた。線路沿いに歩いて駅に辿り着いたら電車で帰ろうとそこを目指して歩く。
自転車を押して歩く警察官とすれ違う。彼の視線を追うと、電車の走る高架橋の下に片付けられた段ボールや毛布。誰かがここで夜を明かすのか。
駅が近づくと急に人が増える。近いのに、みんな全然私と違う環境で生活している雰囲気。よその人達。
ブックオフに立ち寄る。唯一見れていない昔のあゆのライブDVDを見つけた。買わなかった。しょこたんのアルバムが950円だった。買わなかった。

知らない駅の前でJ-COMのお兄さんがティッシュを配っていた。
表示を見て切符を買って電車に乗る。奥のホームから人がわらわら来た。私の乗った電車は空いていた。

ターミナル駅。日曜の夕方。楽しそうな人々の中、私は化粧をしてない顔で鞄も持たずにそそくさと通り抜ける。気を張っていないだけで街はずいぶん違うところに思えた。
再び切符を買い電車に乗った。

帰りつくと日が暮れていた。誰かが橋の真ん中で立ち止まり携帯を掲げて写真を撮っていた。
見ると、川の上に夕焼けと夜の境目があって、星が3つと、薄い月が煌々と光っていた。すれ違いざまに人とぶつかりそうになった。
スーパーでチョコプリンを買って帰った。